じぶんのしごとを作ること まほうのはじまりのこと その5

最後の勤め先になる会社で働きはじめて6年目
仕事でもプライベートでも思うようにいかないことが重なって
引っ越ししてみたり転職を考えたり
あれこれと習い事をはじめてみたり
とにかくふらふらと迷走していた時期だった。

週末に友達と会って食事したり、
服や雑貨を買い込んだり
ひとしきり気晴らしのようなことをしてみるけれど、
ひとり帰宅した部屋でふと
「何をしても気が晴れない」
という言葉が口をついて出た。
さらに
「おまえなんて嫌いだ」
と、こぼしてから
自分の口から出た言葉におどろき、
否定することもできずに
ああ、それって自分のことだろな
と、妙に納得した。
そして自分の中にいるもうひとりの自分に
一体何が気に入らないのか
聞いてみたいと思ったのだ。

20代の頃は、
誰にも依存しないで自立して
ひとりでも楽しく生きていきたい。
とか、
そんな風に考えてた。
実際にはいろんな人にお世話になりながら生きてきたのに、
たいして感謝もせずに、
なんでもひとりでできているつもりで。
それが30代になってからの手痛い失恋で
思い切り足をすくわれてばったり倒れると
それまでの気負いなんて
一気にぺっしゃんこ。
この先どうやって生きて行ったらいいのか
すっかりわからなくなってしまっていた。

ひとりになってアタマに隙間ができると
とたんに真っ黒の雲が頭上にたちこめるようで
ますます仕事を詰め込むようになった。
そしてそんな風に仕事に没頭しながらも
私の本当の居場所はここではないんじゃないか
という
以前からうすうす感じていたことが
ボロボロとメッキがはがれるように
自分の中に見え隠れしはじめたのだ。
もうここにはいられないなと思いながら
それでもすぐに会社を辞めることはできなかった。
まだやらなくてはいけないことがあるような気がしたのだ。
ロールプレイングゲームのように
秘密のドアの鍵を見つけてからじゃないと
いつまでたってもそのステージから出られなような、
そんな感じがした。

それまで
ほんとうは、もっとこんな風にしたい
というやりかたがあったのに、
それができない理由を並べて
いつもいいわけばかりしていた。

その仕事にかかわった人たちがみんな
これが私の仕事です

胸をはって言えるようなものが作りたいと思っていたのに
いつも企画者の私自身が
どこかに不満を持っていて
何かのいいわけを付けくわえずには
自分の作ったものを語ることができないでいた。

だから次こそは自分の思う最高のものを提案して、
とにかくやってみようと思った。
そしてそれができなかったら、妥協するのではなくて
また別のもっと良い方法がある。
という風に考えることにした。

そうして実際にやってみると
いろんなひとが協力してくれたり
イデアを出してくれたり
到底無理だと思っていたことが
ぽつぽつと実現していった。
つまり、色んなことを制約していたのは
私自身だったんだと思う。

そうしてやっと
何のいいわけもでてこないものが
この仕事をはじめて8年目にして
ようやくできあがったようだった。
これが扉の鍵だったんだと今になってそんな風に思い出す。


そして扉をあけたら
そこに
魔法使いが立っていたのだ。